ミトンブログ

岡山市中区高屋のパン屋、mittenのブログ。

ブーム

平昌オリンピック

各国の選手が躍動している。

 

メダルラッシュに沸き、

日本中が盛り上がったときにやってくるのが、

◯◯フィーバー、

あるいは、◯◯ブームというヤツである。

 

今回は、

どんなブームが起こるのだろうか。

まちのパン屋も

ブームには敏感だ。

 

ただ、

このブームというヤツは、

いつも逃げ足が速い。

 

パン屋だって

今まで色んなブームが通り過ぎていった。

焼きたてパンブーム。

天然酵母ブーム。

塩パンブーム。

今は、

生食パンブームといったところか。

 

例えば、塩パン。

一時、

その熱狂は全国的にも凄まじいモノであった。

あれから時は過ぎ、

ここ岡山市に於いては、

塩パンブームも

やや落ち着きつつある。

 

しかし依然として、

愛媛県にある

塩パンブーム発祥の店では、

その熱は冷めることなく

今も燃え続けている。

 

お客さんが次々に、

塩パンを10個、20個とトレイに乗せている。

焼きたての塩パンが

製造室から次々に運ばれてくる。

 

私たちも、

それを目の前で見たことがある。

 

素直に凄いなと思った。

これは、私たちにはできないことだ。

 

けれども、

目の当たりにした熱狂に

少しの寂しさを感じるのは、

私たちがパン屋だからである。

 

今日、

塩パンを20個買ったこの人は、

次はいつ

ここを訪れるだろうか。 

 

いつか、この人も

塩パンを食べることに

手土産にすることに

飽きてしまう日がくるのだろうか。

 

少し冷めた

焼きたてではない塩パンは無視され、

視線はいつも、

新しいモノを追っている。

 

果たして

焼きたてではない塩パンに

価値は無いのだろうか。

 

だが、

そんなことはお構い無しと言わんばかりに、

塩パンは次々に焼かれていく。

今日も、明日も焼かれていく。

 

ブームというヤツは、

とても逃げ足が速い。

追いかけても、

追いかけても、

キリが無いモノである。

 

まちのパン屋の体力では、

とても追いつきそうにない。

 

ならば、

ブームが去っても必要とされるような

塩パンを焼くまでである。

 

飛ぶように売れるようなことはなくとも、

誰かが

毎週のように1個、

食べたくなる塩パンを作る。

 

焼きたてでなくとも、

次の日の朝でも

おいしく食べてもらえる塩パンを作る。

 

塩パンブームは過ぎ去っても、

あなたの

私たちの

日々の生活は、ずっと続いていく。

 

塩パンブームに抗いながら、

まちのパン屋は、

今日も塩パンを作る。

 

先日、

一人のお客さんから言われた言葉が

心に残っている。

 

彼の名は、

森田さん(仮名)という。

 

森田さんは、

こちらが驚くほど

本当によく通ってくれる男性のお客さん。

 

会計を終えた彼が

去り際に冗談ぽく言ってくれた。

「もし僕が現れなくなったら、

 森田は死んだと思って下さい。

 そのときは、同僚が報告に来ますから。」

 

なんともファンキーな激励である。

この言葉、

満面の笑みで喜ぶのは、

何だか違う。

なので、

自分たちへの戒めとして

有り難く受け取ることにした。

 

確かに彼は、

私たちが良いときも悪いときも

ずっと顔を見せに来てくれている。

 

それでも決して

「死ぬまで来続けますから。」

と言わないところが、

彼のイイところだと

私たちは密かに思っている。

 

パン屋を取り巻くブームは、

いつでも通り過ぎていくばかりだが、

彼の

私たちの

日々の生活は、ずっと続いていく。

 

今日も

平昌で輝く選手たちがいる。

その耀きの中に

語り尽くせない程積み上げた

彼らの

日々の生活を思うのは、

私たちがパン屋だからである。

 

ブームの後も

日々の生活は、ずっと続いていく。

塩パンだって同じように。

 
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