ミトンブログ

岡山市中区高屋のパン屋、mittenのブログ。

捨てる

今年もまもなく、

恵方巻を食べる日がやってくる。

 

その翌日の2月4日、

近年大きく話題になるのが、

売れ残り、廃棄処分になる

大量の恵方巻である。

 

この問題に関しては、

パン屋としても見過ごせないモノがある。

パン屋にとって食品ロスは、

永遠の課題といっても過言ではない。

 

私たちが

ここ岡山で「まちのパン屋」を始めた理由は

いくつかあるのだが、

実は一つ

ネガティブな理由がある。

 

私たちが、

かつて働いていた比較的大きなパン屋を辞め、

ここでパン屋を始めた理由。

それは、

パンを捨てることが嫌になったからである。

 

1日に1000人を超えるお客さんが

訪れるパン屋において、

よほどのことがない限り、

パンが完売するなんてことはまず起こらない。

 

というよりも、

完売させてはいけないのである。

 

閉店時、どれだけパンが残っているか。

それを表す数字をロス率と呼ぶ。

そのロス率が0%になってはいけない。

せめて2%台はなければならない。

つまり、

1日100万円分のパンが売れたとすれば、

2万円分のパンが

残ってなければならないことになる。

 

残った2万円分のパンの行方は、

皆さんお察しの通りである。

 

もったいないという声はごもっとも。

単純に考えても、

パンを捨てることは確かにもったいない。

 

さらに近年は、

仕事において

「働き方改革」が大きなテーマになっている。

にもかかわらず、

毎日捨てるためにパンを作るのである。

 

はっきり言って、

捨てるためのパンを作る時間、

その全てをゼロにすれば、

「働き方改革」なんて簡単にできてしまう。

 

だが、分かっている。

そんな改革案は、

ただの綺麗事である。

 

この国のパン屋は、

売れ残ったパンを捨てる「食品ロス」よりも、

来店したお客さんを

がっかりさせてしまわないよう、

機会ロス」対策に

重きを置くことで成長してきたのだ。

 

来店したお客さんに踵を返されるくらいなら、

少しぐらいパンを捨てても構わない。

寂しいことに、

それがパン屋を取り巻く常識なのである。

 

だから、

私たちは

そんな常識が強く根付くパン屋を辞めた。

 

私たちにとって、

「まちのパン屋」は、

パンを捨てるという常識に対する

チャレンジでもある。

 

ただ、店の規模を小さくして、

作る量、売る量を減らすのはおもしろくない。

 

目一杯パンを作って、売って、終わる。

パンは捨てない。

私たちは、

ずっとそれを目指してやっている。

 

冷めたパン、

次の日に食べるパンが

おいしくないとなるのなら、

冷めて時間が経ってもおいしいパンを作り、

次の日でもおいしく食べられる方法を提案する。

 

流行り廃りに流されず、

その時々で、

日々の生活に必要とされるパンを作る。

 

いつか来てくれるかもしれない、

誰かのためにパンを作ることを辞める。

 

今日、ここに来てくれるであろう、

あなたに向けて、

毎日パンを作るようにする。

 

パンを捨てないために、

「まちのパン屋」ができることは結構多い。

 

まちのパン屋は、

今日もパンを作る。

パンを捨てないために

様々なチャレンジをしながら。

 

有難いことに、

周囲のたくさんの方の協力もあり、

今日まで私たちは、

ほとんどのパンを捨てることなく

やってこられた。

(時に、うっかり黒焦げにしてしまうと

無念極まりない…)

 

私たちは、

パン屋の仕事を

駅伝のようなモノだと思っている。

 

日本の、

世界のどこかで、

誰かが小麦の種を蒔く。

 

一度 吹き込まれた命は、

やがて大きくなり、

命の襷となって繋がれていく。

 

収穫された小麦は、

製粉されて小麦粉となり、

パン屋へと届けられる。

 

パン屋は、

確かに受け取った命の襷を

パンを

あなたまで

きちんと届けなければならない。

 

パンを捨てることは、

その命の襷を

途中で燃やしてしまうようなものである。

 

なかなか思うようにいかないこともあるが、

きっと「恵方」に向かっていると信じて、

まちのパン屋は、

今年も命の襷を手に走っている。

あなたにパンを届けるために。


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