ミトンブログ

岡山市中区高屋のパン屋、mittenのブログ。

「文化する」パン屋

気付いたら「平成」が終わっていた。

 

昨年12月のこと。

おかげさまで

私たちのもとには

元気な男の子が誕生した。

 

初めての子育てと

パン屋の両立は

なかなか大変だ。

 

つい最近、

寝返りを打てるようになった彼に

新たな時代、

「令和」の幕開けなんて言っても

もちろんピンとこない。

 

なんなら

私たち両親も

今はそれどころではない!

という感じだ。

 

そんな日々の中、

ただ一つ、

彼に願うのは、

夜、ちゃんと寝てほしいということ。

・・・ではなくて、

どんな時代になろうとも

心豊かな人生を送ってほしい

ということだ。

 

巷では、

働き方改革」が盛んに叫ばれている。

当然、パン屋も例外ではない。

 

パンを作るための機械は、

ここ数十年で目覚ましい進歩を遂げ、

パン作りにかかる労力は

随分と軽減された。

また、

最新のIT技術を取り入れた機器も

各店舗で積極的に導入され、

業務の効率化に大きく貢献した。

 

ところが、

現実に目を向けると、

働き方改革」というのは

思うように進んでいない。

 

これだけ色々なモノが

「進化」した結果、

多くのパン屋で

劇的に労働時間が短くなり、

右肩上がりに

売上が上がり続けているかというと、

一概にそうとも言えない。

 

それどころか、

人手不足に伴う長時間労働は、

多くのパン屋が直面する

深刻な課題となっている。

 

社会に溢れる

様々な「進化」は、

私たちを本当に豊かにしたのだろうか。

 

進化する機械は、

進化する食パンは、

進化するパン屋は、

本当に

パンを売る人を

パンを買う人を

豊かにしたのだろうか。

 

30年後の未来を

今までの「進化」は

豊かにしてくれるだろうか。

 

少々

大袈裟かもしれないが、

私たちパン屋には

それを考える責任があると思っている。

(これから大きくなる子供のためにも!)

 

パン屋の「働き方改革」。

実はこれ、

現代の日本だけの話ではない。

 

というのも、

あの細くて長い

日本でもお馴染みのフランスパンは

フランス版「働き方改革」によって

ポピュラーになった、

とされている。

 

時は20世紀初頭。

フランスのパン屋は、

労働法により

深夜にパンを作ることを

禁じられてしまう。

 

パン屋にとって、

それは大変困ることであった。

今まで作っていた

大きくて丸いパンでは、

発酵させて焼くのに

時間がかかりすぎてしまう。

 

深夜のパン作りを禁じられると

今までのパンが

作れないのである。

 

知恵を絞ったパン屋は、

パン生地を細く長く

伸ばすことにする。

こうすることで、

パンの発酵時間は少し短縮され、

さらに

より短時間で

パンが焼けるようになった。

 

まさに「働き方改革」である。

 

ここで、

私たちが参考にしたい

2つのポイントがある。

 

1つは、

働き方改革」に際して

技術的な革新が

スタートではないこと。

 

細くて長いフランスパンを

綺麗においしく作る技術は

確かに重要だが、

その始まりは

ちょっとした発想の転換であった。

 

2つ目は、

こうして誕生したフランスパンが、

100年近く経った今も

しっかりと受け継がれていること。

しかもフランスのみならず、

日本でも。

 

つまり、

働き方改革」によって誕生した

フランスパンが築いたのは、

食の「進化」ではなく、

100年続く

豊かな食の「文化」だった、

ということだ。

 

省みれば、

私たちパン屋は、

今までたくさんの

「進化」を重ねて前に進み、

たくさんのモノを置き去りにしてきた。

 

特に

この30年は

どんどん「進化する」ことを求め、

たくさんの豊かさを失ってきた。

 

家族と過ごす時間。

子供の頃に食べていた懐かしのパン。

健康的な食生活。

 

物質的な「進化」を

ただただ求め、

お金では買えない豊かさを

気付かないうちに

手放してきた。

 

計り知れない「進化」によって、

一体何が「文化」として

残っただろうか。

 

時代も変わったので、

そろそろ見直す

いい機会である。

 

私たちは、

「進化する」パン屋である以上に、

「文化する」パン屋になりたいと

考えている。

 

パン屋として、

30年後の彼のために

豊かな食の「文化」を

ちゃんと築いておきたい。

 

これからも

まちのパン屋は、

フランスパンを作る。

 

「文化する」というのは、

何かを守るというのとは、

少し違う。

 

たくさんの人に

飛ぶように売れるわけではない

シンプルなフランスパンだが、

少しでも

興味を持ってもらえれば嬉しい。

 

フランスパンの生地を

「進化」させて

色々なパンを作るのは、

「文化する」パン屋の

チャレンジだ。

 

毎日、

試行錯誤しながら生み出す

食の「文化」の中に

豊かさがあってほしいと願うのは、

単純な親心でもある。


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*今回、ブログの中で使わせていただいた「文化する」という言葉は、株式会社文鳥社代表である牧野氏の記事が元となっております。

https://note.mu/copywriterseyes/n/neaad803f3edc