ミトンブログ

岡山市中区高屋のパン屋、mittenのブログ。

配達の皆さま その3

山中さん(仮名)との出会いには、

あまりいい印象がない。

 

あれは、

ミトンがオープンしてから

数ヵ月が経った頃。

店のことが

雑誌で取り上げられたことをきっかけに

突然、山中さんがやってきた。

 

「社長に行ってこい!と言われたので

 飛び込みで来ました!」

絵に描いたような飛び込み営業である。

 

山中さんは、

矢継ぎ早に一通りしゃべり、

「これよかったら試してください!」

と材料のサンプルを差し出した。

かと思えば、

「また来ます!」

と言い残して去っていく。

 

「何なんだ一体・・・。」

まるで嵐のような彼の営業に

私たちは呆気に取られていた。

 

それから山中さんは、

その言葉通り、

定期的に私たちのもとを

訪れるようになる。

 

しばらく

同じようなやり取りが続いた後、

気付けば

私たちの方が、

山中さんに

発注するようになっていた。

 

それもそのはず。

山中さんは、

どの業者の人よりも

店の売り場をよくチェックし、

私たちが

どんなパンを作っているのか

どんなお客さんがいるのか

よくよく気にかけていたのだ。

 

藪から棒に見える提案も

彼なりに考えがあるモノだった。

もちろん、

それを私たちに

押し付けるようなことはしない。

ただ、

私たちにも

彼の意図はちゃんと通じている。

 

ざっくばらんで正直なところが、

山中さんのいいところである。

無理なことは無理と言うし、

他社を選ぶ方が

こちらの利益になる場合は

そう言ってくれる。

 

だから私たちも

何か新しいことを始めたいと思ったときは、

とりあえず

山中さんに相談することが多い。

知識や経験も豊富な彼は、

とても頼りになる存在だ。

 

こうして、

欠かすことのできない

「配達の皆さま」の一員になった山中さん。

初めての出会いからは、

想像もできない

今がある。

 

まちのパン屋は、

今日もパンを作る。

 

山中さんは、

今日もきっと

誰かのために

まちを走り回っている。

 

パン作りには時間がかかる。

そんなことは、

ずっと知っていたつもりだった。

けれども

パン屋の前には、

ずっと先から流れている時間がある。

 

パン屋が使いたい

たくさんの材料を手配し、

店まで届けてくれる「配達の皆さま」。

こだわりのパンはもちろん、

100円のパンにだって、

彼らの力は欠かせない。

 

パン作りには

とても時間がかかる。

本当の意味で、

それを教えてくれたのは、

個性的な「配達の皆さま」だ。

 

雑誌やテレビで踊る

「パン特集!」の文字。

 

もしも私たちが、

その制作に携わることができるなら、

是非とも「配達の皆さま」に

スポットを当てたい。

 

まちのパン屋の

小さな野望である。
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