ミトンブログ

岡山市中区高屋のパン屋、mittenのブログ。

配達の皆さま その1

雑誌やテレビで踊る

『パン特集!』の文字。

 

その中身はもちろん、

おしゃれな店内、

個性的なパン、

こだわりの素材。

 

どれも分かりやすく

キラキラしている。

 

しかし、

どんなに腕のいいパン職人も

どんなに高級な小麦粉も

“彼ら”がいなければ、

その力を発揮することはできない。

 

“彼ら”というのは、

パン屋に材料を配達してくれる

業者の人たち。

そう、

「配達の皆さま」のことである。

 

そんな「皆さま」の中に

ひとり、

感謝してもしきれない人がいる。

 

私たちよりも

ひと回り近く年上の彼とは

ミトンがオープンする前からの

お付き合いである。

彼の名前は川本さん(仮名)という。

 

初めて名刺を交換したとき、

そこには“部長代理”と書いてあった。

 

正直なところ、

彼の第一印象は、

「できる男!」

という感じではなかった。

 

物腰が柔らかく

穏やかに話す川本さん。

その中で

一番覚えているのは、

まだ何者でもない私たちの話を

この頃出会った

他のどの大人よりも

彼が真剣に聞いてくれたことである。

 

私たちには、

どうしても使いたい小麦粉があった。

 

あいにく、

その小麦粉は

尋ねたどの業者でも取り扱いがないという。

 

川本さんの会社でも、

それは同じ。

やはり、

「難しいかもしれない。」

と初めに言われた。

 

無理もない。

先行きも分からない

小さな新店のために

不要になるかもしれない

在庫を抱えることは

会社にとってリスクでしかない。

 

しかし、

次に川本さんに会ったとき、

「これ、いけますよ。」

そう、サラリと告げられた。

なぜそうなったのかは

よく分からない。

 

ただ一つ言えるのは、

もしも川本さんが

この小麦粉を手配できなかったら、

今、

ミトンに並んでいるパンは

違うモノになっていたかもしれない

ということである。

 

ミトンで作っている食パンのレシピは、

このとき

川本さんが手配してくれた小麦粉をもとに

少しずつ改良を加えながら、

今も作り続けている。

 

川本さんは、

決して口数の多い方ではない。

けれども、

色んなことをよく見ている。

 

オープン当初のバタバタしていた時期。

私たちは、

届けてもらった材料を

片付けるのもひと苦労だった。

 

ある日、

いつもは何とか材料を片付ける私たちも

手が回らなくなっていた。

 

それを見た川本さん。

何も言わずに

せっせと材料を片付けはじめた。

 

ちなみに私たちは

彼に材料の保管場所、

定位置を教えたことはなかった。

 

それだけではない。

川本さんが、

いつも

一見無造作に

積み上げていく数種類の小麦粉袋(各25kg)。

 

気付いたら、

次に使いたい粉袋が

ほぼ間違いなく

一番上に置かれている。

その次も、またその次も。

 

たぶん川本さんは、

それぞれの粉の使用頻度と減り具合を

いつも観察し、

把握していた。

もちろん、

彼とそんな話をしたことはない。

 

店のオープンから1年近くが過ぎ、

ミトンの配達担当者が

川本さんから別の人に変わることになった。

 

いつの間にか

川本さんは、

周りの人から“部長”と

呼ばれるようになっていた。

 

失礼を承知で言わせてもらうと、

まちのパン屋も納得の昇進である。

 

ただ、

私たちの担当を外れた今も、

川本さんは

よく店を訪ねてくれる。

売り場をよく見て

イムリーな提案をしてくれる営業の腕は

流石といったところである。

 

「できる男!」というのは、

こういう人のことを言うのだなと

身をもって思い知った。

 

そんな川本さん。

今日もきっと

誰かのために

まちを走り回っているはずである。

 

つづく


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