ミトンブログ

岡山市中区高屋のパン屋、mittenのブログ。

座る人

気付いたら、

そこに座っている。

 

そんな、

玄米ロールの話を。

 

ミトンの店先にある

ガーデンチェアとテーブル。

あまり使われることはないのだが、

たまにパンを食べていく人がいる。

 

しかし、

店に入る前に座るのは、

彼女ひとりである。

気付いたら、

そこに座っている。

お年はおそらく70〜80代。

少し離れたご自宅から、歩いて来られる。

パン屋に入る前にひと休み。

 

カランカラーン。

扉が開く。

「いらっしゃいませ!」

とお迎えすると、

「はい、こんにちは!」

と大きな声で応えてくれる。

 

「あー、しんどい」

と言いながら、

オーダーするのは、

食パン1斤に玄米ロールをいくつか。

 

そしてまた、

大きな声で

「はい、ありがとう!」

と言ってお帰りになる。

 

この次は、いつだろう。

彼女の背中を見送りながら、

いつも思っている。

 

彼女の来店頻度は、

多くて月に1回、

それ以上にスパンが空くこともしばしば。

 

彼女は、

抗がん剤治療を受けているという。

しんどいのは、

パン屋のガーデンチェアで

ひと休みするのは、

歩き疲れたから、だけではない。

 

しんどいと言う彼女は、

いつも

「また、頑張るよ」

と言いながら帰ってゆく。

また次の治療が始まるのだ。

 

抗がん剤治療の辛さや大変さは、

実際のところ、

受けていない私たちには分からない。

 

それでも、

彼女が明日を思いながら、

前向きに生きているのは、

パン屋にもよく分かる。

 

明日も生きる。

だから、パンを食べるのだ。

 

玄米ロールは、

とても地味なパンである。

彼女の前では、

インスタ映えなんて言葉は無意味だ。

パンは、

明日を生きるための

力になるものなのだ。

 

パンは命の源だと

彼女の背中を見て、

いつも思う。

 

生きる希望というと大袈裟だが、

パン屋も少しは、

生きる手助けができればと思う。

 

確かに、

パンだって、

映えないよりは、映えた方がいい。

けれども、

こうして誰かに

本当に必要とされるパンを

作り続けることこそ大切にしたい。

 

まちのパン屋は、

明日も玄米ロールを作る。

とても地味なパンだが、

誰かの力になってくれたらうれしい。

 

次はいつ、

店先のガーデンチェアに

座ってくれるだろう。

気付いたら彼女がいるかもしれない。

その、少しうれしくなる安心感を

明日も待っている。

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