ミトンブログ

岡山市中区高屋のパン屋、mittenのブログ。

寝坊と服

最近、一気に寒くなってきた。

朝、布団から出るのが辛い季節だ。

 

パン屋は、朝が早い。

寒さに負けて、

ついつい、寝過ごしてしまうこともある。

 

そんな、パン屋の寝坊にまつわる話。

 

数年前、私がパン屋に勤めていた頃。

誰かが寝坊するという、

ちょっとした事件は

数ヶ月に一度は起きるものであった。

 

パン屋は多くの場合、分業制である。

なので、その日に働く人が全員、

一斉に出勤することは無い。

パン生地を仕込む人、切る人、

成型する人、焼く人。

パン生地の発酵に合わせて、

働く人は順次出勤してくる。

 

一番厄介なのは、

言うまでもなく、

仕込み担当者が寝坊することである。

私も一度寝過ごしてしまったことがあるが、

さすがに、

仕込み担当のときは寝坊したことが無い。

 

あの瞬間は、結構ゾッとするものだ。

 

その日は、二番目の出勤。

付いているはずの電気が付いていない。

いるはずなのに誰もいない。

仕込み担当者が寝坊。

事件の第一発見者になった瞬間である。

 

自分が寝坊したときは、

まだいい(いや、よくはないが)。

まず謝り、

いつも以上に頑張るだけだ。

ところが、

第一発見者になると、

寝坊するよりも色々と大変である。

 

その日は、

まず、仕込み担当の先輩に

鬼のように電話を掛ける。

寝ているので、なかなか繋がらない。

起きるまで、何度も何度も掛ける。

と同時に、

本来の作業工程が

全てパーになっているので、

それをすぐさま組み替える。

誰かがやってくるまでの間、

1人で2人分の作業。

なんとかオープンの時間に

間に合わせるため、必死になる。

 

そして、

いつもの倍の密度の仕事もひと段落し、

ようやく休憩の時間。

 

安心したのも束の間、

衝撃の光景は、

更衣室の棚にあった。

 

更衣室の棚には、

各自、出勤時に着ていた服を置いている。

扉は付いていない。

 

私の隣の棚には、

今朝寝坊をして、

鬼のように電話をさせていただいた

先輩の服がある。

 

それがなんと、

驚くほど綺麗に畳んでいるのである。

端はもちろん、ピッタリと揃えている。

まるで正座をして畳んだような様だ。

 

なんなら、慌てて着替えて畳んだ

私の服の方が、

寝坊した人のそれみたいである。

 

先輩は、

確かに息を切らしてやってきたはずだった。

すごく申し訳なさそうだった。

 

けれども服は語りかけてくる。

焦りがまるで無い。

意外と余裕だったのだろうか。

はたまた一周まわって

驚くほど冷静になってしまったパターンか。

 

いずれにしても、

服は脱いでもなお、

その人のことがよく分かる、

ということを思い知った。

 

まちのパン屋は、

明日もパンを作る。

寒い朝も、頑張って起きなければ。

 

という訳で、

寝坊といえば

更衣室の棚、

綺麗に畳まれた服を思い出す、

今日この頃である。

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