ミトンブログ

岡山市中区高屋のパン屋、mittenのブログ。

名もなき家事

衝撃が走った。

電撃解任である。

 

というのは、

どこかの相撲協会の話ではない。

これは、

とある家庭の「家事」の話である。

 

数日前、

一人の女性が

食パンを手にレジへやってきた。

 

「主人が来たら、

 もう買ったからと伝えてください。」

 

そう言われて、ハッとした。

今、目の前にいる女性は、

毎週食パンを買いに来る男性の奥様である。

何度かお見かけしたことはあったが、

久しぶりのご来店だ。

 

一瞬、?マークを浮かべた私に

奥様が呟いた。

 

「最近、主人が忘れっぽくて。

 だから今日は私が買いにきたの。」

 

昨今、ネット上で

「名もなき家事」という言葉が話題になっている。

 

「名もなき家事」という言葉は、

夫婦間の家事に対する

認識の違いを示すときに用いられる。

 

例えば、トイレットペーパー。

トイレットペーパーが切れたら、

買いに行かなければならない。

 

些細な事と言えば、些細な事である。

しかし、

とある調査によると、

「トイレットペーパーを買いに行く」

という行動を「家事」だと認識している妻が

80%を超えるのに対して、

夫は、60%台に留まるという。

 

この他にも

「洗濯」と言えば、「家事」となるが、

例えば「洗濯用洗剤を買いに行く」、

「洗濯物を仕分ける」という行動は、

それを「家事」と捉えるか否か、

夫婦間で微妙な認識の違いが出てくるという。

 

このような認識の違いこそが、

「名もなき家事」の示すところである。

 

先ほどの奥様の言葉を聞いて、

パン屋もふと考えさせられた。

 

もしかすると、

「パン屋に食パンを買いに行く」というのも

「名もなき家事」なのかもしれない。

 

そんなことを思っていると、

つい先日、

奥様が再びやって来た。

 

ついに、

その日が来てしまったのだ。

「食パンを買いに行く」という家事、

旦那様の電撃解任である。

 

「今度からは、私が食パンを買いに来ますね。」

 

奥様は、

そう言って食パンを買って行った。

 

実は、

ミトンで食パンを買うお客さんは、

意外と男性も多い。

 

皆さん

「パン屋で食パンを買う」という使命を

奥様から仰せつかっているのでは、

と推測している。

 

まちのパン屋は、

今日も食パンを作る。

 

正直なところ、

パン屋としては、

せっかく食パンを買いに来てくれた方を

「名もなき家事」呼ばわりするのは、

なんだか心苦しい。

 

パンを買いに行くというのは、

日々の生活の中における

立派な「家事」である。

 

それでも「名もなき」と言われるならば、

まちのパン屋が、

勝手に命名しようと思う。

 

いつも、

「パン屋に食パンを買いに行く」

あなたは、

「食パンを買いに行く担当大臣」である。

 

電撃解任があるならば、

彼の電撃復帰も十分あり得ると

心のどこかで期待している。

 

まちのパン屋は、

「食パンを買いに行く」ことを

「名もなき家事」とは言わせない。

 

なんせ大臣である。

パンだけに要職なのだ。

 

失礼します。


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捨てる

今年もまもなく、

恵方巻を食べる日がやってくる。

 

その翌日の2月4日、

近年大きく話題になるのが、

売れ残り、廃棄処分になる

大量の恵方巻である。

 

この問題に関しては、

パン屋としても見過ごせないモノがある。

パン屋にとって食品ロスは、

永遠の課題といっても過言ではない。

 

私たちが

ここ岡山で「まちのパン屋」を始めた理由は

いくつかあるのだが、

実は一つ

ネガティブな理由がある。

 

私たちが、

かつて働いていた比較的大きなパン屋を辞め、

ここでパン屋を始めた理由。

それは、

パンを捨てることが嫌になったからである。

 

1日に1000人を超えるお客さんが

訪れるパン屋において、

よほどのことがない限り、

パンが完売するなんてことはまず起こらない。

 

というよりも、

完売させてはいけないのである。

 

閉店時、どれだけパンが残っているか。

それを表す数字をロス率と呼ぶ。

そのロス率が0%になってはいけない。

せめて2%台はなければならない。

つまり、

1日100万円分のパンが売れたとすれば、

2万円分のパンが

残ってなければならないことになる。

 

残った2万円分のパンの行方は、

皆さんお察しの通りである。

 

もったいないという声はごもっとも。

単純に考えても、

パンを捨てることは確かにもったいない。

 

さらに近年は、

仕事において

「働き方改革」が大きなテーマになっている。

にもかかわらず、

毎日捨てるためにパンを作るのである。

 

はっきり言って、

捨てるためのパンを作る時間、

その全てをゼロにすれば、

「働き方改革」なんて簡単にできてしまう。

 

だが、分かっている。

そんな改革案は、

ただの綺麗事である。

 

この国のパン屋は、

売れ残ったパンを捨てる「食品ロス」よりも、

来店したお客さんを

がっかりさせてしまわないよう、

機会ロス」対策に

重きを置くことで成長してきたのだ。

 

来店したお客さんに踵を返されるくらいなら、

少しぐらいパンを捨てても構わない。

寂しいことに、

それがパン屋を取り巻く常識なのである。

 

だから、

私たちは

そんな常識が強く根付くパン屋を辞めた。

 

私たちにとって、

「まちのパン屋」は、

パンを捨てるという常識に対する

チャレンジでもある。

 

ただ、店の規模を小さくして、

作る量、売る量を減らすのはおもしろくない。

 

目一杯パンを作って、売って、終わる。

パンは捨てない。

私たちは、

ずっとそれを目指してやっている。

 

冷めたパン、

次の日に食べるパンが

おいしくないとなるのなら、

冷めて時間が経ってもおいしいパンを作り、

次の日でもおいしく食べられる方法を提案する。

 

流行り廃りに流されず、

その時々で、

日々の生活に必要とされるパンを作る。

 

いつか来てくれるかもしれない、

誰かのためにパンを作ることを辞める。

 

今日、ここに来てくれるであろう、

あなたに向けて、

毎日パンを作るようにする。

 

パンを捨てないために、

「まちのパン屋」ができることは結構多い。

 

まちのパン屋は、

今日もパンを作る。

パンを捨てないために

様々なチャレンジをしながら。

 

有難いことに、

周囲のたくさんの方の協力もあり、

今日まで私たちは、

ほとんどのパンを捨てることなく

やってこられた。

(時に、うっかり黒焦げにしてしまうと

無念極まりない…)

 

私たちは、

パン屋の仕事を

駅伝のようなモノだと思っている。

 

日本の、

世界のどこかで、

誰かが小麦の種を蒔く。

 

一度 吹き込まれた命は、

やがて大きくなり、

命の襷となって繋がれていく。

 

収穫された小麦は、

製粉されて小麦粉となり、

パン屋へと届けられる。

 

パン屋は、

確かに受け取った命の襷を

パンを

あなたまで

きちんと届けなければならない。

 

パンを捨てることは、

その命の襷を

途中で燃やしてしまうようなものである。

 

なかなか思うようにいかないこともあるが、

きっと「恵方」に向かっていると信じて、

まちのパン屋は、

今年も命の襷を手に走っている。

あなたにパンを届けるために。


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ドドドォー!!!ナツ2

プロ野球のキャンプインが近づいている。

 

私たちが応援している

広島東洋カープの今季スローガンは

『ドドドォー!!!』である。

 

お察しの通り、

岡山でカープの話題を出しても、

ほぼゼロに等しい。

 

それでも今回は、

昨年の「ドドドォー!!!ナツ」に続き、

「ドドドォー!!!ナツ2」をお送りしたい。

 

本日の「ドドドォー!!!ナツ」は、

約1年前に登場してから、

ひそかに推している「吉備ドーナツ」である。

 

「吉備ドーナツ」とは、

その名の通り

岡山名物「きびだんご」に

インスピレーションを得た

あんドーナツである。

 

なんといっても、

そのこだわりは餡にある。

生地に包むのは、

岡山県産の備中白小豆から作られた白あん。

 

一般的に白あんというと、

インゲン豆を原料に作られたモノが

広く知られている。

しかし、

「吉備ドーナツ」の白あんは違う。

白小豆から作る

白小豆あんを包んでいるのだ。

 

白小豆と書いて、

「しろしょうず」と読む。

この白小豆、

普段あまり目にすることも、

耳にすることもないのは、

それが希少品種であることが理由だろう。

 

馴染みのある赤い小豆に比べ、

白小豆は、栽培が難しく手間がかかる。

そのため、価格の変動も激しい。

 

なので、

量販店で販売されている和菓子など、

世の中の多くの白あんは、

白小豆ではなく、

インゲン豆を原料にして作られている。

 

もちろん、

インゲン豆の白あんもおいしい。

しかし、

どんなにおいしいインゲン豆の白あんも

白小豆あんには敵わないと思っている。

 

白小豆あんの

風味、口どけ、後味のよさ。

それらは、

インゲン豆の白あんに比べると

まるで格が違う。

 

この白小豆あん、

北海道をはじめ、

全国の限られた地域でのみ栽培されているのだが、

その発祥は岡山にあるとされている。

 

よってミトンでは、

「備中白小豆あん」を包んだドーナツを

「吉備ドーナツ」と名付けることにした。

 

それともうひとつ。

「吉備ドーナツ」には、

こだわりの岡山県産食材を使用している。

 

それは、

表面にたっぷりまぶした「作州黒豆きなこ」。

「吉備ドーナツ」は、

あんドーナツなのに

外側をカリカリのフランスパン粉で覆っている。

「作州黒豆きなこ」には、

そのカリカリの表面に薄化粧をしてもらう。

 

この「作州黒豆きなこ」もまた、

普通のきな粉に比べると、

風味豊かで

ちょっと大人の渋い味わいがある。

 

「備中白小豆あん」に「作州黒豆きなこ」。

この2つの食材、

言わずもがな、

和菓子の世界においては高級食材である。

 

それが幸か不幸か、

ドーナツという

思いがけないフィールドで出合い、

「吉備ドーナツ」となった次第である。

 

まちのパン屋は、

今日も「吉備ドーナツ」を作る。

 

パン屋としては、

カープの本拠地マツダスタジアムでも、

今年の球場グルメとして、

「ドドドォー!!!ナツ」が

登場するのではと期待している。

 

ここは、

今季もカープに頑張ってもらうため、

私たちも

「ドドドォー!!!ナツ1&2」(非公認)を

もっとアピールしなければ。

 

今年こそ、

「吉備ドーナツ」の魅力を多くの人に伝えたい。

というわけで皆さま、

「吉備ドーナツ」をよろしくお願い致します。

なれなれしく

「キビドー」と呼んでもらえると喜びます。


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究極の選択

冬、

受験シーズンである。

 

受験をはじめ、就職、結婚。

人生の節目と呼ばれるものには、

何かと「究極の選択」がつきものである。

 

Aにすべきか、Bにすべきか。

はたまた、

本当にAでいいのだろうか…

 

しかし、

「究極の選択」とは言うものの、

それがやってくるのは、

何も人生の節目だけではない。

 

個人的に

どうしても忘れられない

「究極の選択」の風景がある。

 

場所は、

いつかの東京。

電車の中。

池袋駅に向かう西武線の車内では、

5歳くらいの男の子とお母さんが話していた。

 

お母さんが、

語気をやや強めて問いかける。

レゴランド(お台場)と本屋、

 どっちに行くの?」

 

向かいの席でなんとなく

親子の会話を見ていた私も、

思わず悩んでしまった。

 

これは、どっちだ。

いや、

というよりも

レゴランドか本屋、

どちらかしかダメなのか…

 

これぞ、「究極の選択」である。

 

男の子も「究極の選択」を前に、

苦悶の表情を浮かべている。

結局、彼も答えを出せぬまま、

電車は池袋駅へと滑り込んだ。

 

「究極の選択」は

意外と

生活のすぐそばにある。

 

まちのパン屋だって、

毎日、「究極の選択」に溢れている。

 

カレーパンにするか、

クロックムッシュにするか。

明日の朝食は、

イギリスパンか、食パンか。

あと1個。いや、我慢。

 

ともあれ、

こうして悩んでもらえるというのは、

有り難いことである。

 

コンビニでタバコを買うように

パンを選ぶのでは、

何だか味気ない。

 

「究極の選択」は、

知らず知らずのうちに

日々の生活を

豊かにしてくれるはずだと思っている。

 

まちのパン屋は、

今日も「究極を選択」を見届ける。

 

好き嫌いはそれぞれあれど、

私たちは、

全てのパンを大切に、

心を込めて作っている。

 

なので本音を言えば、

「究極の選択」を前にしたときに、

選ばなかった方の道も

是非いつかは試していただきたいところである。

 

「究極の選択」なのに、

いろんな道を試せるのは、

パン屋ならではの楽しみだと思っている。

 

「本屋は、

 レゴランドの帰りに行けばいいよ。」

あのとき、

あの男の子に

そう言いたかったのは、

ここだけの話である。


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パンの色気

突然だが、

おいしいパンには

色気があると思っている。

 

色気のあるパンとは、

つまり

見た目と味のギャップ。

派手さは無いけれど、

想像以上の奥深さがある。

長く愛されるパンには、

どこかしら色気がある。

 

毎日パンを作りながら、

そう思っている。

 

分かりやすいのは、

デニッシュである。

 

デニッシュというのは、

その名の通り、

デンマークで愛されてきたパンの一種。

 

固く練り上げた生地に

バターを二度、三度と折り込む。

クリームやナッツ、

チェリーなどをトッピングして

焼き上げたそれは、

サクサクとした食感が何よりの特徴だ。

 

日本の

おしゃれなパン屋さんのデニッシュは、

上へ上へ、

煌びやかにフルーツが盛られ、

店頭を彩る。

 

なるほど、

これは映える。

確かにこの華やかさも、

デニッシュの大きな魅力である。

 

しかし、

個人的にデニッシュには

ちょっとした思い入れがある。

 

デニッシュと言えばデンマーク

そこに並ぶデニッシュは、

日本の華やかなモノに比べると、

はっきり言って

地味である。

 

ただ、

その地味なデニッシュには

間違いなく色気がある。

 

見た目以上に風味豊かで、

その中には色んな味が、

層を成して

詰め込まれている。

 

パンのおいしさ、

つまりは色気、

それは中に中に隠されている。

 

この、

外には見えない色気こそ、

デンマークでデニッシュが

長く愛されてきた所以なのではないかなと

私たちは思っている。

 

だから、

ミトンのデニッシュも

色気は中に中に隠している。

 

例えば、

カスタードクリームのデニッシュ。

クリームの下には、

ラム酒を効かせたアーモンドペーストを

ひっそりと仕込んでいる。

そう。

おいしさの色気は中に中に。

 

何度食べても驚き、

安心してもらえるように、

肝心なところは

外から見えないようにしている。

 

もちろん、

デニッシュ以外のパンにも

きちんと色気がある。

 

フランスパンやイギリスパンの色気。

それは、

後から後からやってくる。

パンを口にしたときに、

最後に残る香ばしさ。

それは、

クープのちょうど立っているところ。

はたまた、耳の部分。

 

こういうパンの色気は、

だいたい終わりの方、

その端っこにあると思っている。

 

食パンの色気。

それは、奥ゆかしさ。

そのまま食べておいしいのはもちろん、

バターやジャムを塗ったとき、

パンは一歩下がって、

上手にそれらを引き立てる。

 

この変幻自在の色気こそ、

おいしい食パンの条件だと思っている。

 

パンの色気というのは、

なかなか店頭では目立たない。

 

長く愛されるおいしさ、

色気というのは、

中に中に、

後から後から、

奥に奥に、

ひっそりと隠れているモノである。

 

まちのパン屋は、

今年も

色気のあるパンを作るため、

試行錯誤を繰り返す。

 

その思いが、

一人でも多くの人に伝われば

うれしい。

 

みなさま、

騙されたと思って、

パンの色気を探してみてはいかがでしょう。

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クリスマスイヴに

今年もクリスマスが終わった。

猛ダッシュをかけた師走も、

ここで一息。

 

まちのパン屋のクリスマスは、

毎年1日遅れ。

12月26日は、

私たちにとってのクリスマスとなる。

 

という訳で、

今年のクリスマスを振り返り、

ここにメモしておきたい話を。

 

まちのパン屋は、

パンしか置いていないような、

コンビニでは無いと思っている。

お客さんの欲しい商品が常時ある保証も、

電子決済のスピード感も、

お決まりのマニュアルも、

まちのパン屋は持っていない。

 

コンビニに比べると

全ての便利さは、

明らかに劣っている。

 

けれども、

いや、だからこそ、

なんとなく、

お客さんと話すようになることがある。

それは、接客とは少し違ったもの。

言うならば、

パンを買うことの延長線上にある、

お客さんの生活を垣間見ることができる。

そんな感覚である。

 

さて、

クリスマスイヴの24日。

お昼前後にご来店した方は、

お気付きの通り、

店内には、

豆を挽いてコーヒーを淹れる男性がいた。

 

この方、

地元の方ならご存知、

『トスティーノコーヒー』さんの関係者。

 

今回、

『トスティーノコーヒー』さんに

ミトンオリジナルブレンド

コーヒー開発を依頼し、

この男性に

ドリップパックのパッケージデザイン等を

お願いした。

 

と言うと、

すごくビジネスライクに聞こえるが、

こうなったきっかけは、

もともとお客さんであった彼との

なんとなくの話からだった。

 

なんとなく、

彼がどんなお仕事をしているのかを耳にし、

なんとなく、

キャンプに合うコーヒーなるものを

作っていることを知った。

どうやら、

キャンプが好きなようである。

 

この情報に閃いたのは、

パン屋の方である。

 

まちのパン屋は、

キャンプが好きな人をもう一人

知っている。

 

その方は、

今年9月に完成したミトンのHPを

作成された女性。

 

と言うと、

これまたビジネスライクに聞こえるが、

こうなったきっかけは、

もともとお客さんだった彼女との

なんとなくの話からだった。

 

なんとなく、

彼女がキャンプに行く前に

パンを買いに来ていることが分かった。

なんとなく話すうちに、

彼女がキャンプ好きであることを知った。

彼女のお仕事を聞いたのは、

そのあとである。

 

実は、

この2人が出会ったら、

面白いかもしれないなと

最近思っていた。

(お互い既婚者なので、

  あくまでも仕事の話として。)

 

クリスマスイヴ、

店内でコーヒーを淹れる彼。

そこへ彼女がやってきたのは、

お昼を少し過ぎた頃だった。

 

現在、

彼女は岡山市から少し離れた場所に

住んでいる。

まさか今日、

ここで、

キャンプを愛する2人が

出会うことになるとは。

ものすごい偶然である。

 

さらにさらに、

昔、通っていた学校が

同じだったことに盛り上がる2人。

 

このとき、

2人の奇跡的な出会いに

パン屋もひそかに興奮していたのは、

ここだけの話である。

 

とはいえ今は、

SNSで簡単に人と人とが繋がる時代。

ひと昔前に比べれば、

偶然の出会いも

随分簡単になったのかもしれない。

 

しかし、

便利なコンビニの店内では、

この2人が出会うなんて

まず無かったのではないかと思う。

 

自分で言うのもなんだが、

まちのパン屋のアナログさも

ときには良いものである。

 

まちのパン屋は、

今日もなんとなく話す。

 

私たちは、

便利さだけが豊かさでは無いと思い、

お客さんにはレジに並んでいただく。

(そんなに長蛇の列にはならないが)

 

たとえば、

レジに並ぶあなたの前のお客さんが、

一言二言話すのを待ってほしい。

それは、ほんの数十秒である。

 

今回は、

その数十秒の積み重ねが、

クリスマスイヴに

素敵な出会いをさせてくれた。

 

年の瀬。

何かと忙しい12月。

コンビニの便利さは、

まちのパン屋には無い。

けれども、

どうか、焦らず待っていてほしい。

 

次は、あなたの番です。

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クリスマスのイケメン

パン屋での買い物に

子供たちの「おねだり」は付きものである。

 

「あともう1個欲しい!」

「ジュース飲みたい!」

 

ご想像の通り、

ここで子供たちの希望が叶うことは、

なかなか難しい。

 

「1個だけって言ったでしょ!」

「お家にあるからダメ!」

 

特にレジ前での攻防戦は、

お父さん、お母さんに

軍配が上がることがほとんどである。

 

12月のとある休日、

これまた、

レジ前での攻防戦が始まった。

 

会計中、

お母さんの隣から、

ひょいっと、

小学生の男の子の手が伸びる。

 

レジに置かれたのは、

クリスマスラッピングを施した

焼き菓子セット(¥500)である。

 

パン屋の経験上、分かる。

(これは、

「ダメ、返してきなさい!」のパターンだ。)

 

すかさず、

お母さんが反応する。

「何これ?」

 

(やっぱり。)

男の子は圧倒的に不利な状況にある。

 

と思っていたが、

彼は一味違っていた。

 

男の子のひと押し。

「お母さんにプレゼントしたい!

  あとで500円払うから!」

 

(!?)

 

彼から出てきた言葉は、

思いもよらず、イケメンであった。

もちろん、

こんな「おねだり」を目にしたのは、

パン屋としても初めてである。

 

お母さんも、

彼の言葉に少し驚いている。

(これは、

「分かった。買ってあげるから。」

「今日だけよ!」 となるのかな。)

 

と期待したが、

とんだ思い上がりであった。

 

お母さんも

一筋縄ではいかないようである。

「ちゃんと払うんよ!

  絶対忘れんから!」

 

世の中、そんなに甘くない。

とはいえ、交渉成立のようだ。

 

「うん!払う!」

男の子も社会の厳しさを

よく理解している。

 

こうして彼は、

無事にプレゼントを確保することができた。

 

会計を終え、

パンの入ったビニール袋を

お母さんに手渡す。

プレゼント用の焼き菓子セットは、

クリスマス仕様の紙袋に入れて、

男の子に持ってもらった。

 

お母さんへのプレゼント、

クリスマス焼き菓子セット。

まちのパン屋としては、

親子で食べてもらえると嬉しい。

(きっと、2人で食べてくれるだろうな。)

そう思いながら、

素敵な親子の背中を見送った。

 

まちのパン屋は、

クリスマスに焼き菓子セットを作る。

 

思いもよらず触れた

イケメンな心遣いと

社会の厳しさは、

期間限定モノならではの楽しみである。

 

いよいよ

クリスマスまであと2週間を切った。

キラキラ光るイルミネーション。

ピザにチキン、ケーキを食べる。

サンタさんから貰うプレゼント。

 

どうやら、

それだけがクリスマスではないらしい。

 

クリスマスの楽しみ方も色々。

そう教えてくれたのは、

パン屋で繰り広げられる

親子の攻防戦。

他ならぬ、イケメンな男の子である。

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