ミトンブログ

岡山市中区高屋のパン屋、mittenのブログ。

あの衝撃を超えるものに、

未だ出合っていない。

 

というのは、デニッシュの話である。

 

そのデニッシュを食べたのは、

パン屋で働くことを考え始めたとき。

会社説明会で出された、

焼き立てのダークチェリー。

 

一口食べた瞬間、衝撃を受けた。

美味しい、感動、なんてもんじゃない。

 

今まで食べてきた

デニッシュと呼ばれるものは、

デニッシュではなかったことを知った。

そして、これを作りたいと思った。

 

願い叶って、

実際にパン屋で働くようになってから、

焼き立てのデニッシュを何度も食べた。

しかし、

あのときの衝撃を超えるデニッシュには

なかなか出合えなかった。

焼き立てで、同じデニッシュを食べても

何かが違うのである。

 

 

実は最近、

その理由をひとつ、

見つけたような気がしている。

 

皿である。

 

あのとき衝撃を受けたデニッシュは、

焼き立てで、皿に載せられていた。

 

一方、パン屋で食べる焼き立ては、

包装された袋のまま

食べてしまうことが多い。

 

皿というのは不思議なものである。

 

パン屋で働くようになり、

パンを皿に載せると、

立派な食卓になるということを知った。

 

袋に入ったパンは、

どんな美味しいパンでも、

そのまま食べてしまえば、

ただのパンである。

 

しかし、

パンを皿に載せると、

どんなパンでも

華やかな朝食に、

おしゃれなランチに、

特別なディナーになる。

 

デニッシュも同じ。

デニッシュの美味しさは、

皿の上にこぼれ落ちる、儚い層にある。

一息に食べてしまうのが惜しくて、

一度手を止める。

その気持ちを、

皿が受けとめてくれる。

 

デニッシュの美味しさは、

感動は、

衝撃は、

皿の上にこそあるのだ。

きっと。

 

まちのパン屋は、

明日もデニッシュを焼く。

 

明日は

いくつか多めに焼いて、

皿の上に載せて食べてみようか。

 

心して、確かめたい。

 

果たして、

あのとき食べたデニッシュの衝撃を

超えられるだろうか。

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